福岡高等裁判所 昭和28(う)2399 高裁判例
主 文
原判決中被告人甲に関する部分を破棄する。
被告人を懲役壱年八月に処する。
原審における未決勾留日数中、九拾日を右本刑に算入する。
理 由
本件控訴の趣意は記録に編綴されている弁護人谷本二郎及び被告人各自提出の控
訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。
弁護人の控訴趣意第一点の(A)(法令適用の誤)について、
原判決は、その認定した事実として引用した昭和二十八年六月二十二日附起訴状
記載の第二の事実につき単純逃走罪の既遂を認定しているが、原判決のあげている
関係部分の証拠及び当裁判所で取り調べた証拠を綜合<要旨>すると、被告人は窃盗
罪により飯塚簡易裁判所に起訴され、尓来、未決囚として稲築町警察署留置場内に
勾留</要旨>されていたところ、昭和二十八年五月二十八日第四回公判開廷のため看
守巡査乙に看視されて同裁判所に出頭し、同公判終了後同日正午頃自分と一緒に手
錠をかけられていた他の被告人の用便のため同行して同裁判所構内の便所に行つた
際逃走しようと決意し右乙巡査の隙に乗じて突如右手に手錠をはめたまま同便所附
近から逃げ出したが、同巡査は直ちにこれを発見して追跡し、途中一、二度被告人
の姿を見失つたけれども、通行人等の指示により被告人の逃走径路を辿つて被告人
を追いかけ結局間もなく同所から約六百米距てた飯塚市西四丁目西町巡査派出所附
近の丙杜宅内で被告人を逮捕した事実を認めることができるし、この事実による
と、看守者たる右乙巡査が逃走した被告人を追跡中、たとい一時被告人の所在を見
失つたにしても被告人は未だ右看守者の実力的支配を全く脱したものということが
できないので、被告人の右所為は単純逃走罪の未遂にすぎないものといわねばなら
ない。
してみれば、原判決が挙示の証拠により被告人の所為を以て前記のとおり単純逃
走罪の既遂と認定したのは、事実を誤認したものでその誤が判決に影響を及ぼすこ
とが明らかであるから原判決中被告人甲に関する部分は、刑事訴訟法第三百九十七
条第三百八十二条に則り破棄を免れない。論旨は結局理由がある。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 後藤師郎 裁判官 大曲壮次郎)